昔ながらの固定種は、気候変動にも強い
今やほとんどの野菜は「F1種」
野菜の種には「F1種」と「固定種」があります。「F1種」は「First Filial Generation」(雑種第一代)の略称であり「ハイブリッド」や「交配種」とも呼ばれています。販売されている種のパッケージには「交配」と書かれているのが特徴です。いっぽうパッケージに「在来種」や「育成」などと書かれているものがありますが、こちらは「固定種」です。

実はスーパーや店で販売されている野菜のほとんどがF1種で、購入できる種や苗もその多くがF1種になっています。それは、F1種は農薬や化学肥料の併用によって収量が多く、形や味も揃いやすいので、今の流通にとって好都合だからです。
種は、「毎年,生産者が採るもの」というイメージがありますが、F1種は生産者が種を毎年購入する必要があります。F1種は、両親の優性の遺伝を受け継ぐことによって、最初の一年目(子世代)は生育旺盛で収量も期待できますが、その後、種取りしてもその特徴が孫世代には受け継ぐことができないように作られているからです。

さらにF1種は、「雄性不稔」(花粉が作られず種子をつけない性質を持った植物のこと)の技術を施された種が多いことが懸念されます。この技術は、種の販売購入量を増やしたい種苗会社にとっては都合が良いために、実際に大根などさまざまな野菜の交配に利用されています。しかし「摂取者の生殖能力に影響があるのではないか」との説も出ています。もし本当にそうであれば、F1種が人間種の存亡にも影響していかないとも限りません。
昔は「固定種」しかなかった
ほんの40年前頃までF1種が登場する以前は、固定種から育てた野菜しかありませんでした。自家採種が可能で、地域の伝統野菜などの「在来種」も固定種のひとつです。
固定種は農家が毎年、自分の畑で種取りをして繰り返し栽培してきた野菜です。自ら育てた作物から採った種で新たな作物を育てるという、昔から当たり前に続いてきた農業に沿うものです。固定種は、品種の多様性を有しているため、見た目や味のバリエーションが多いのも特徴です。今やほとんどの野菜がF1種になっていますが、かえって昔ながらの「固定種」に関心を持つ人も増えてきています。もちろん「固定種」は、農家が毎年種を購入するコストもかかりません。つまり固定種は、日本だけではなく、世界各地で何千年何百年前から続いてきた循環型農業の核となるものだったのです。

固定種の「日本法蓮草」は、九月彼岸頃にトゲのある三角形のタネを水に浸けてまいてからおよそ三ヶ月かかって育ち、お正月頃に食べる冬野菜でした。根が赤くて甘く、生食できるほどアクがなくておいしいのですが、葉は薄く切れ葉でボリュームがなく、寒くなると地面に張り付くように広がって、収穫に手間のかかる野菜でした。
それに比べると東洋種と西洋種の雑種であるF1ホウレンソウは、春や夏も周年蒔けて、わずか一ヶ月で出荷できる大きさに育ち、丸い葉は厚くて大きく立性で、収穫しやすいのが特徴。その上、丸粒に改良された種は機械で蒔くことができるなど、農業の効率化に沿っており、一年中ホウレンソウが出回るようになったのです。
しかし、成育期間が短くなった結果、細胞の密度が粗くなり、大味になって、「紙を食ってるようだ」と言われるほどまずくなったのも事実。おまけに、葉緑体による光合成の期間も短いので、葉に含まれるビタミンCなどの栄養価も、固定種の五分の一から十分の一に減ってしまいました。周年栽培や収量の増加そして省力化は、営利栽培にとってありがたいことで重要な要素ですが、消費者の側に立てば、味の低下だけではなく栄養素も減少するとなると、何より大きな弊害になるのです。
