温暖化を促進している慣行農業
ここ数年の夏の暑さや台風の巨大化を見ると、温暖化がますます進んできていることを実感させられます。
最近は、人口の増加に伴い、畑を確保するために、森林が伐採されたり焼かれたりしています。そうなると二酸化炭素を排出されるだけではなく、森林がますます減ることとなり、二酸化炭素が吸収される量が減るという、まさに悪循環に陥っています。
ところで、実は慣行農業が広がることもまた、気候温暖化の一要因になっているということをご存知ですか?

土中の微生物の働きによってCO2が炭素として固定される
森の木々が二酸化炭素を吸収して、自らの体に炭素分として固定する働きをしていることはよく知られていますが、土中の微生物は動植物を分解して土に還すとともに、その分解物を代謝して炭素分を自らの体に固定します。
そのようにして、土壌の微生物もまた二酸化炭素発生量の減少に大きな役割を果たしているのです。

ところが慣行農業は、農薬や化学肥料によって、土壌の微生物を極端に減少させてしまいます。
そのため慣行農業の土地が増えるほど、土壌の微生物がいなくなってしまうため、大気中の二酸化炭素が土中に固定される量も減少していき、ついには完全に失われてしまいます。 つまり微生物の働きを農業生産の循環に取り入れない慣行農法は、結果的に気候温暖化をますます促してしまうことになります。

有機農業に変えれば気候温暖化が和らぐ
2015年の統計によると、世界の耕地面積は、15.8億haで、そのほとんどが慣行農業によって作物が栽培されています。もしこれを有機農業に変えると、土壌の二酸化炭素吸収力がぐんと回復することとなり、地球温暖化を和らげることが期待されます。
有機農法は、化学肥料や農薬にたよる慣行農法と異なり、むしろ土に棲む微生物を増やすことが基本になります。
有機農業では草や農作物の残渣やたい肥なども利用されています。それらの動植物性有機物が分解されると、二酸化炭素が大気に放出されます。しかし土中の微生物は有機物を食べて、自らの体に有機質成分(=炭素分)として固定します。つまり、微生物の体に炭素が蓄えられるとともに、いっぽう、代謝によって、アミノ酸などの有機質の成分が新たに生まれるのです。

有機物の残渣をたい肥化し、土中に有機物を投入する量を増やせば増やすほど、地下に微生物が大量に増えるため、結果的に土中に固定される炭素量が増えていくことになります。
土中に固定された炭素は、次の作物に養分として利用されたりしますが、いっぽうで土中にとどまったままのものもあります。
他方で、農作物は、微生物から土壌の中の栄養分を集めてきてもらいます。作物が光合成で作り出す糖の30%を根を通して、土壌に放出されます。この糖の放出で、土壌中の微生物を呼び寄せ養っています。微生物との共生によって、土壌中に空気中の炭素分が固定されていくのです。
地球上全体としてみれば、土中にとどまっている炭素分は、空気中の二酸化炭素が地下に移動したものなので、温暖化現象を抑えることにつながります。
2015年、気候変動枠組条約会議(COP15)にフランスのル・フォル元農相が「4パーミルイニシアチブ」を提唱しています。
それは、毎年、世界の土壌に炭素分を年間0.4%増やそうというものです。このペースであれば、人間の活動で発生する二酸化炭素の年間の排出量を相殺できるということです。
2021年、IFOAM(国際有機農業運動連盟)のアンドレ・ルー会長によると、地球上の炭素量の存在の内訳として、植物には5750億トン、大気中には9000億トン、土壌中には1兆7000億トン存在している、といいます。一方で、オハイオ州立大学のラタン・ラル教授は、土壌からはすでに4500億トンの炭素量が失われており、その量は、1850年以降の化石燃料からの2700億トンより多いと指摘しています。
土中での微生物の働きを栽培方法に取り入れる有機農法の良さは、単に安心安全にとどまりません。大気中の二酸化炭素を微生物の養分として土壌に戻し、気候温暖化を和らげることにもつながるのです。
