植物由来の洗剤の原料は、パーム椰子
近年、環境や手肌にやさしい「植物由来の洗剤」という言葉をよく目にします。
しかしマレーシアを訪れたとき、その言葉の背後にある大きな問題を目のあたりにしました。マレーシアの首都クアラルンプールからシンガポール方面に車で走ったとき、行けども行けども道路に沿って続くのはパーム椰子……。
パーム椰子は、もっとも効率よくオイルが採れる植物と聞いていましたが、なるほど、そのことがこの風景となっているのだと衝撃を受けました。
今やパーム椰子はマレーシアやインドネシアで大量栽培され、採取した油は、世界中に輸出されています。日本では、菓子類の揚げ油にも大量に使われ、とくに最近は、消費者のイメージを良くするために「植物から作られたやさしい洗剤」と称して、合成洗剤の原料に使われています。
実際は、パーム椰子と石油から合成された合成界面活性剤の洗剤で、たとえ原料が植物であっても自然界にない合成成分を作ることは可能であることを一般消費者が見逃していることが利用されているわけです。
「害獣」として駆除されるゾウ
パーム椰子が続く道を走るうちに見えてきたのが、ゾウの姿が描かれた黄色い交通標識。なんとそれは、「ゾウに注意」の警告の標識でした。
パーム椰子のプランテーションは、熱帯雨林を切り開いて作られるため、もともとそこに棲んでいたゾウやサル、鳥、その他の動物や野生植物などが住処を追われてしまいます。餌を求めてパーム椰子園入ってきたゾウもたいてい殺処分にされてしまいます。もちろんゾウだけではなく数多くの動物たちが、パーム椰子園にとって「害獣」というレッテルを貼られているのです。
さらにまたパーム椰子園では、大量に除草剤も散布されるため様々な植物も消えていき、当然ながら深刻な水の汚染も招いています。
単一の原料にこだわる大量生産が動植物の多様性を破壊
パーム椰子油という単一の素材にこだわる理由は、大量生産にとって安く効率的だから。 しかしその行き着く先は、動植物の多様性の破壊であり、本来、地球にあった豊かさが人間の活動によって留まることなく失われているのです。
動植物の絶滅は、100年前頃には、毎年1種類程度だったのに、急速に加速し、今ではなんと年間4~5万種にもなるといわれています。つまり、毎日100種類以上もの動植物が消えて行っているのです。生物の中で最も数が多いのが昆虫ですが、2017年ドイツのある環境研究所では、過去30年間の間に飛翔昆虫の75パーセント以上が消えたという報告が発表されて世界中に大きな衝撃が走りました。
近年の多くの多様な動植物絶滅の原因は、人間の経済活動を目的とした資源獲得や土地利用によるものです。悲しいことに人間が、地球の多様な豊かさであるはずの仲間=動植物に破壊をもたらし続けているのです。一度、消えた動植物は、二度とこの星には戻ってきません。
しかしそれは人間と言う種にとってふさわしいことであるはずがありません。 今、私たちは、経済中心の価値観や生き方を見直して、かつて世界各地で暮らしていた先住民族のように、多様な動植物とともに生き、それらを守る平和な文化や暮らしを改めて作っていかなければならないのではないでしょうか?
実はパーム椰子油は、合成界面活性剤ベースの洗剤だけではなく、エコというイメージがある石けんにもよく使われています。たしかに自然界で分解する石けんは、水汚染の原因にはなりませんが、広大なアジアのパーム椰子園を目のあたりにすると、そのオイルを作る過程で既に深刻な環境破壊を招いていることが見えてきます。
石けん作りには、パーム椰子油だけではなく、オリーブ油、シアバター、ひまわり油、椿油など、多様な植物油を使うことが望まれます。
石けん以外にも、昔から使われてきたナチュラルな洗浄成分が数多くあります。ムクロジ、シカカイ、シャボン草のサポニン、クレイ、重曹、クエン酸などなど。単一の洗浄成分ではなく、多様な洗浄成分を使いこなすほうがより進化したオーガニックライフと言えましょう。
ちなみに最近、ヨーロッパでは、ムクロジを原料とした「リタ」という洗浄剤が流行ってきています。「リタ」は、鏡やステンレス、ガラスの曇りを驚くほどきれにしてくれると話題を呼んでいるそうです。